第十二回

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 日本人は水と安全はタダと思いがちだが、いずれも近年は揺らいできている。南の小島では、安全はともかく、水の確保については昔から死活問題であった。
 山もなく、川もない与論ではかつて、海岸部や内陸部の湧水や井戸が主な水源で、周辺に人は住み着いた。与論に最初に人が定住したとされる南東部の赤崎海岸近くには「奄水(アマンジョウ)」と呼ばれる湧水地がある。また、城(グスク)地区の地下湧水地「屋川(ヤゴー)」は、世之主の与論城築城時代から使われていたとされ、生活水として最近まで使われていた。狭い割れ目のような竪穴の奥にあり、急な階段を慎重に下っていくと、清水が静かに湧き出ている。そっと冷たい水に手を触れると、いつとはなく忘れていた水の有り難味を思いだした。
 そんな湧水地や井戸に水を汲みに行くのはかつて、島の女性の役割だった。
 「学校から帰ったらまず水汲み。天秤を担いで坂の下の井戸まで汲みに行ったのよ」
 戦前から戦後にかけての少女時代を平静枝さんはこう思いだす。
 女性たちがこの辛い水汲みから解放されるのは昭和三十九年の簡易水道敷設まで待たねばならなかった。

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島の真中にある
淡水化プラント

 水道敷設は島民のそれまでの労苦を一掃させた画期的なものだった。ただ、水道水は地下水をくみ上げたもので、与論島は琉球石灰岩に覆われ、そこに滲みこんだ地下水はカルシウムが多く、硬度がかなり高い。健康には問題なく、逆にミネラルが豊富で「おいしい」との評判もあったが、長い間の使用でトイレの便器や蛇口などに白く石灰分がこびりついたり、ボイラーなどの機械に影響を与え、耐用年数を早める原因ともなっていた。
 さらに、最近は化学肥料を使ったサトウキビ農業などの影響で、地下水の硝酸性窒素濃度が上昇。近年の健康志向から、島民のミネラルウォーターの消費量は一人当たり年間七十リットルにも上り、水道水の水質改善を求める声が根強かった。
 そのうえ、サトウキビの生産拡大や複合的農業への移行によって、地下水の利用が増えた結果、くみ上げすぎた地下水の部分に海水が浸透し、淡水と海水が混じってできる「かん水」(薄い塩水)となるケースが増えている。
 そのため平成十三年、水質改善とかん水の淡水化、渇水期の水不足対策のため、鹿児島の離島では初めてとなる淡水化プラントが建設された。

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 プラント建設の総事業費は約十一億円。島では巨大なプロジェクトで、四億円余りの国庫補助や三億円の起債などで賄った。
 島のほぼ中央の高台にあるプラントは職員が計器を時折チェックするだけの自動稼動。処理には、イオン交換膜を通して塩分やカルシウム、硝酸性窒素などの物質を除去する電気透析装置を使用している。ただし、プラントが処理した水がすべて水道水となるわけではない。処理した一日約千五百鼎凌紊髻△發箸發箸涼浪漆緻鸚虍百鼎蛤ぜて平均約三千三百鼎魏板蹐惷ゝ襪靴討い襦
 町水道課の村田課長は「数値を問題ないレベルに下げるのが目的のためこれで十分」と話す。
 こうした過程を経て出来たおいしくて安全な飲料水。だがほかの地域では必要ない過程でもあり、どうしてもコストは高くつく。水道代は一般家庭で一電たり三百八十円。本土ならば地域によっても違うが、この半分から三分の二程度で済むという。
 「水は大切という意識があるから町民の理解は得られている」
 しかし、最近は節約志向から天水(雨水)をためるタンクを備える家庭が増えており、水の需要は年々減ってきているという。水道事業の収支にも微妙に影響を与えてきている。
 「節水は決して悪いことではないが…、ウーン」と悩ましげな水道課。さてもさても…。

(銭本隆行)