尊尊我無タイトル 尊い生命へ、感謝と祈りを伝えたい KONICA MINOLTA 産経新聞70周年
"北の天使"がもたらす休息 北海道羅臼町 「さつえい絵日記」はコチラ
 胸底をえぐる海鳴りが消えると、羅臼は流氷の季節を迎える。一月の下旬、北の海に天然のふたをするかのように流氷が海面を覆っていた。

 ギシギシ、ギシギシ、ギーギーギー。接岸した氷塊が後ろからやってきた氷に押され、悲鳴を上げる。

 氷面の下では他のどんな季節にも増して、魚が群れている。流氷が豊富なプランクトンを連れてくるからだ。その魚群を追って、アザラシやオジロワシ、トドもやってくる。だが、海が流氷に閉ざされている間、地上の人間たちは漁に出ることができない。

 「海が休息する時期なんだ」

 羅臼で漁師を四十年近くしていた嶋磯松さんは語る。流氷の到来で人と魚に"休戦協定"が結ばれ、この間に海は豊かな姿を取り戻す。流氷は北の海の天使なのかもしれない。
流氷に浮かぶ漁船
 極寒のこの休息の季節にも、突如として漁が開始されることがある。羅臼で「前浜」と呼ばれる根室海峡では、羅臼岳からの吹き降ろす風の加減で流氷が沖合に姿を消したり、ちりぢりとなることもあるからだ。

 そのすきを見計らい、人々はしたたかに船を出す。スケソウダラの刺し網漁、沿岸でのウニ採り漁。スケソウダラの漁獲量は年間の半分ぐらいがこの時期にあたる。

 夜明けの波止場にたたずみ、指呼の間にある国後島を流氷の向こうに望む。沖合に、いさり火を輝かす刺し網漁船、沿岸にはボートのようなウニ採り船。波止場に立つだけで、ほおがたちまち突っ張り、指先がしびれてくる。オン・ザ・ロックの海での漁はこんなものではなかろう。氷点下の世界。風が吹けば鼻水も凍る。

 「そりゃあ、寒いものは寒いよ。だけど一番つらいのは眠ささ」

 羅臼の漁師は語る。流氷が接岸しない限り漁は続く。夕方戻って夜中に出航。これが一週間続けば、睡魔が寒さの感覚を上回る。眠れば転落、すなわち死。そんな極限の中で漁師たちは気合を入れ直す。

 流氷によって人間と魚がほどよい節度を持ち、接している羅臼の海。自然を超越し、操作することを疑わない人間の傲慢(ごうまん)はここにはない。自然の恵みを享受し、感謝するのみ。

 またひとつ、流氷を縫って船が港を出る。無事を祈り、今日も大漁であることを願う。(銭本隆行)


さつえい絵日記
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●撮影/酒巻俊介(産経新聞社 写真報道局)
【撮影データ】 6×4.5カメラ 200mmレンズ
コニカクロームSINBI100
●撮影地/北海道 羅臼・相泊港(アイドマリコウ)
●撮影状況:
海面を覆った流氷は国後島まで続く。その氷の切れ間をぬって漁船が海に出てゆく。

●撮影テクニック:
どんな明るさか。チャンスを狙いながら、露出を変えてシャッターを切ることで自分が思う表現をつかんでいきたい。
「北海道 羅臼町」案内
ありのままを受け入れる器
尊尊我無―ここに生きる人達の懐の深さ。それはこの厳しい自然と向き合い、尊重しあう暮らしにあるのかも知れません。ありのままを受け入れる、器の大きさが適度な距離を作り出していく。
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流氷に浮かぶ漁船
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