尊尊我無タイトル 尊い生命へ、感謝と祈りを伝えたい KONICA MINOLTA 産経新聞70周年
優しさに包まれた天空の里 「さつえい絵日記」はコチラ
 青く澄んだ空が手に取るように近い。急斜面に耕された畑から風がはいのぼり、土のにおいが鼻をくすぐる。緑に包まれた谷間のかなたには巨人のような聖岳が優しく顔をのぞかせていた。

 下栗は南アルプスを間近に望み、標高八百から一千メートルの斜面に広がる山上の地。最大傾斜は三十七度に達し、畑を見下ろすと、吸い込まれそうになってあわてて姿勢をただす。

 米は取れないが、日当たりがよく、水はけがよい土壌で畑作に適している。麦や大豆とともに主食の一つだったジャガイモは年二回作られ、「ニドイモ」と呼ばれる。もっとも傾斜地のため土が落ちていかないように下から上に向かって耕すことが必要。かなりの重労働だ。
土を耕す老人

 今でこそ車で労せずしていけるが、車道が通じた昭和四十三年以前は、自らの足や馬に移動や輸送を頼らなければならなかった。

 「八十八夜にはなぜか病人が多く、数人が交代で担ぎ、夜でもちょうちんを持ってふもとの医者まで下っていった」

 今年で八十六歳になる野牧久信さんはかつての苦労をしのぶ。

 高地のため寒さは厳しく、以前は農作業ができない冬場になると、男はわらじ作り、女は針仕事に勤(いそ)しんだ。

 だが、決して楽とはいえない暮らしの中でも、人々は明るく、時には頼りあいながら力強く生きてきた。山国とはいえ、天に開けた土地に住む下栗の人はおおらかで開放的だ。初対面の相手にも気さくに話しかける姿に一瞬、戸惑う。

 久保敷トキ子さんは愛知県にいる長男から一緒に暮らそうといわれたが断り、八十年もの歳月を過ごしてきた下栗での独り暮らしを選んだ。

 「ちょっと顔を見せなければ近所の誰もが様子を見に来てくれる。下栗からは離れられない」

 そんな優しさに包まれてきたからこそ、今をもたらしてくれた古人への謝意は強い。

 「車がくるなんて今でも夢にも思えない。昔とは比べられない生活が送られるのも先祖さまのおかげ。本当に感謝、感謝だ」

 先祖への思いをかみ締めながら言葉をゆっくり繰り返すトキ子さんの姿からは、天のそばに暮らす人々の満ち足りた心が強く伝わってくるようだった。(銭本隆行)



さつえい絵日記
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●撮影/酒巻俊介(産経新聞社 写真報道局)
【撮影データ】 6×4.5カメラ 80〜160mmズームレンズ
コニカクロームSINBI100
●撮影地/長野県上村(かみむら)・下栗(しもぐり)
●撮影状況:
傾いてきた日差しが斜面の村を照らす。ひとり土を耕す老人の姿があった。

撮影テクニック:
残念ながら遠くの山並みは雲に隠れてしまった。しかし刻一刻と変化する雲と影の様子を狙って何枚もシャッターを切ろう。同じ瞬間は二度とない。
「長野県上村・下栗」案内
ここでしか得られない暮らし
高地の過酷な自然と向き合い、急勾配の山腹を耕す暮らし。そこには、いつも苦労が絶えなかったといいます。「先人の努力を無駄にしたくない」この土地では、いまもそんな暮らしが受け継がれています。
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